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医学的絶食療法(断食)の主役は内分泌ホルモルン
医学的絶食療法(断食・ファースティング)の主役は内分泌ホルモン

  長期の医学的絶食療法(断食)をした人の体重を見ると、最初は、体重減少は大変大きく、徐々に少なくなってきます。医学的絶食療法(断食)による体重減少は、同じ割合で減少するのではなくて、すべてこのような経過を取ります。

  なぜそうなるのか。そこには素晴らしい身体の適応現象が見られます。この適応の仕組みを理解していただければ、ファースティングも効果的かつ安全に行えますので、少し難しそうですがお読みいただきたいと思います。

 医学的絶食療法(断食)による身体の変化は、カロリーと食塩の摂取がないことにより起こります。この2つに対して身体がどう反応して生命を保つかということです。その主役はホルモンです。

エネルギーの面から

 まず、エネルギーの問題です。Cahillという人の研究によれば、標準体重が70Kgの人のエネルギーの貯蔵量は、糖質であるブドウ糖やグリコーゲンで840Kcalです。一日2000Kcal消費するとすると、半日分ぐらいです。

  蛋白質は24000Kcalで、約12日分です。脂肪では実に135000kcalですから、67.5日分になります。合計すると約80日分あるということです。

  これは標準体重の人の場合です。肥満というのはこの上にさらに脂肪がプラスされています。10Kg肥満しているというのは、脂肪組織は30%が水分と仮定 すると7万kcalですから、プラス35日分、20Kgの肥満は実に70日分のエネルギーを余分にもって生きていることになります。

  どこかで遭難して2ヶ月後に発見されたとき、ようやく標準体重に戻っていたということです。勿論、これは緊急事態ですので、命の保証はありません。

  ただ、このようなデータから、いかに体重を減らすということが難しいかということがご理解頂けると思います。

脳細胞は甘党

  このように大量のエネルギーを体内に蓄えていても、身体がそれを利用できなければ生きていけません。どのようにするのでしょうか。

 医学的絶食療法(断食)に入り、半日以上経過するとブドウ糖はもうありません。残るエネルギー源は、筋肉の中にある蛋白質か、おなかの周りの脂肪組織です。

  一方、脳の神経細胞とか、赤血球、白血球はブドウ糖で生きています。どんな状態になってもブドウ糖がいります。これがないと意識がなくなります。脂肪だけでは生命を保てないのです。

  そこで、筋肉を分解してアミノ酸にして肝臓でブドウ糖をつくり、最低の血糖のレベルを維持しているのです。これを糖新生と言います。このブドウ糖が脳の神経細胞へ行って使われます。

  この糖新生をするのは誰でしょうか。副腎からでてくるコルチゾール(糖質ホルモン)が、この重要な役割を演じます。アトピー性皮膚炎やネフローゼ、膠原病などの治療で有名なホルモンです。

糖質ホルモン

 薬かと思っていた方もあるでしょうが、日々私たちの腎臓の上にある副腎から分泌されています。だから、医学的絶食療法(断食)というのは、自分の身体からでる糖質ホルモンを使ったステロイド療法だということも言えます。

  こうして、どんなに血糖は下がっても、50~60mg/dlで止まります。素晴らしい調節です。

インシュリン

さらに、インシュリンです。インシュリンはすい臓で作られ、不足すると血糖が上がって糖尿病になるホルモンですが、ファースティング中は、ただでさえ少ない血糖をさらに下げないように、インシュリンも下がります。実にうまく出来ています。

しかも、長期の医学的絶食療法(断食)になれば、神経細胞は次に述べる脂肪から作られるケトン体を食べることができるので筋肉の消費が少なくなります。

  このように、医学的絶食療法(断食)中の血糖は、筋肉由来の蛋白質から作られたものです。血糖がちょっと低いので、計算のスピードが落ちたり 難しい本は読みにくいです。そのかわり感性が冴えてきます。緑が綺麗に見え、鳥の鳴き声が新鮮に感じ、空や海の広がりに感動します。

ケトン体

 一方、心臓、腎臓、筋肉、このような臓器は脂肪を利用できます。おなかの脂肪が分解され遊離脂肪酸となって血液中に入り身体中を回りますが、この遊離脂肪 酸を食べることができます。あるいは遊離脂肪酸が肝臓で変化したケトン体を食べます。このケトン体がたくさん生産されると尿に出てきます。

血中遊離脂肪酸
ハイドロキシ酪酸
アセト酢酸

 医学的絶食療法(断食・ファースティング)中は、毎朝の検尿をしてケトン体を測っています。医学的絶食療法(断食・ファースティング)が進行すると段々増え、復食に 入って食事のカロリーが増えてくると段々減ってきます。これは医学的絶食療法(断食・ファースティング)の経過を見るのに大変便利です。

尿中ケトン体
自律神経系

  アドレナリンやノルアドレナリンといった自律神経系のホルモンも活性化してきます。

ノルアドレナリン

 自律神経系の役割は、医学的絶食療法(断食・ファースティング)の初日に蓄えられていたグリコーゲンを分解して、ブドウ糖をつくります。その後は、おなかの周りの中性脂肪を切り出して遊離脂肪酸にし、血液中に運びます。

 それから、医学的絶食療法(断食・ファースティング)は尿から食塩を失うので、水が一緒について出て少し脱水気味になります。ほうっておくと血圧が下がりすぎますので、心臓の収縮回数を増やすのと、体中の細い動脈を縮めて最低限の血圧を保つようにします。

 正常血圧の方は医学的絶食療法(断食・ファースティング)をしてもあまり血圧が低下しないのは、一つはこのホルモンのお蔭です。もう一つは、後で出てくる腎臓のレニンというホルモンのお蔭です。

甲状腺ホルモン

医学的絶食療法(断食・ファースティング)の時に、甲状腺ホルモンはどうなるでしょうか。

 医学的絶食療法(断食)に入ると、生命体としては一日でも長く生き延びたい。そのため基礎代謝を下げて消費カロリーを低くします。自動車で言うと排気量が2000ccの車が1600ccになるようなものです。

  基礎代謝をコントロールしているのは甲状腺ホルモンですから、甲状腺ホルモンの活性を下げようとします。

  通常は、T4というホルモンからT3というホルモンを作ります。このT3というのは、作用が非常に強力です。しかし、ファースティングに入るとT4から、リバースT3というホルモン活性が殆どない物質を作り、肝心のT3が出来ません。

ホルモンT4
ホルモンT3
リバースT3

このように甲状腺ホルモンの活性が下がり、基礎代謝も下り、体重は落ちなくなるということになります。

医学的絶食療法(断食・ファースティング)-食塩の面から

 いままでは、エネルギーの面からお話してきました。こんどは、食塩の面からです。普段は10gちょっとの食塩を食べて、それと同じぐらいの量が尿から出ています。

  もし医学的絶食療法(断食・ファースティング)中も、同じように尿から食塩が出たら、数日の内に私たちは死んでしまいます。それでは困ります。

アルドステロンとレニン

 それでどうするかということですが、アルドステロンというホルモンが働きます。

 アルドステロンは副腎から分泌される電解質ホルモンで、尿中から食塩を再吸収します。断食(ファースティング)中は、このアルドステロンの分泌が非常に多くなり、尿に食塩は出なくなります。

アルドステロン

 ただ最初の数日はまだこのホルモンの分泌は多くならないので、その間は尿から食塩が漏れます。

  次にレニンです。
  これは腎臓から分泌されるホルモンで、血圧が下がると沢山分泌され血圧を上げます。同時に副腎を刺激してアルドステロンも分泌させ、食塩を失わないようにするのです。それ以上脱水になって血圧が下がらないようにするためです。

レニン

 食塩はナトリウムとクロールの化合物ですが、摂取したナトリウムと尿から排出されたナトリウムの差で見ると、最初の4日間ぐらいは、入った量よりも尿中に失った量のほうが多くマイナスになっています。

  ナトリウムと一緒に水がついて漏れるので脱水が起こります。しかし、その後は入ったナトリウムと出た量は殆ど同じになり、脱水は止まります。

ナトリウム排出量と摂取量

 ですから、医学的絶食療法(断食・ファースティング)の最初の数日の体重減少の大部分は脱水です。脱水になると血液が固まりやすくなります。動脈硬化のある方ですと、心筋梗塞や、脳梗塞を起こす可能性があります。

  水を摂取しても食塩がないので脱水を止めることはできませんが、水を飲まなければもっと脱水になります。このため、水を最低でも2000cc摂取するようにしているのです。

体重が減らない理由

 以上が、医学的絶食療法(断食・ファースティング)による体重減少は、最初が非常に大きく、日が経つにつれて少なくなってくることの説明です。

 第1には脱水が起こらなくなること、第2には基礎代謝を下げること。第3には長期の断食(ファースティング)になると、神経細胞も脂肪からできたケトン体を食べることができるようになることです。

  蛋白質は1gが4Kcalですが、脂肪は1gが9Kcalです。脂肪を食べるほうが体重は減らないし、脂肪は身体に沢山貯蔵しています。

  ですから長期の医学的絶食療法(断食・ファースティング)になると、減るのは段々脂肪だけの量になって、日に200~300gぐらいしか減らないという安定期に入ります。

  これは一日でも長く生き延びようとする生体の適応能力です。自分は「あれ食べたい、これ食べたい」と思っているだけで何もしないのに、身体の中ではこのような現象が起こっています。このような適応現象は実に感動的です。実に素晴らしいことです。

  この点からも、医学的絶食療法(断食・ファースティング)を減量の方法とは思わないで下さい。減量にこだわっているとこの素晴らしい能力を見逃すことになります。この感動を味わいにくくなります。

Met・エンケファリン

 Met・エンケファリンも上昇しました。これは、モルヒネ様作用のあるホルモンです。マラソンなどの長距離を走っているときには、β-エンドルフィンの分 泌が増え、ランニングハイといわれ爽快感が来ることが報告されていますが、医学的絶食療法(断食・ファースティング)のときにはMet・エンケファリンが上昇し ました。

ナチュラルキラー細胞

 ナチュラルキラー細胞はどうでしょうか。ナチュラルキラー細胞は、がんの発生や転移の抑制、ウイルス感染に対する防御にも重要な役割を果たしていると考えられています。

  最初から非常に高い人は上昇しませんが、それ以外の人では、断食(ファースティング)後も復食後も、意味のある上昇を認めました。特に、最初少ない人ほどよく増加しました。ただ、このデータだけでどのような効果があるか即断できません。

  「爽やか指数」が上昇して、Met・エンケファリンの分泌が高まり、ナチュラルキラー細胞も増加するということは一つの可能性としては考えられますが、あくまでも推測です。ここでは、現象だけにとどめたいと思います。

変化してはならないものもある

 今まで大きく変化するものばかり出しましたが、生命を保つためには、変化してはならないものもあります。

  血中のナトリウムは、医学的絶食療法(断食・ファースティング)によっては殆ど変化しません。先ほどのアルドステロンが尿からナトリウムを漏らさないようにしています。電解質は、ばらばらになったらすぐに生命が危険になりますので、変わらないように調節されています。

血清ナトリウム

 それからBUNやクレアチニンです。これは身体の老廃物で腎臓から排出されています。上昇してくれば尿毒症になりますが、十分水分を摂取しているかぎり上昇しません。水分の摂取はこの点からも大切です。

血清BUN
血清クレアチニン

 それから総蛋白やアルブミンも殆ど変わりません。総蛋白やアルブミンが下がれば栄養失調ですから大変です。糖新生のために医学的絶食療法(断食・ファースティング)中は筋肉の蛋白質が多少消費されますが、私の指導している程度の医学的絶食療法(断食・ファースティング)期間では低下しません。

血清総たんぱく質

このように変わってはいけない部分については、変わらないように調節されています。

調和の最高峰

 しかし今まで見ていただいたのは、ごく一部です。私たちが知りえるのは、ごく一部でしかありません。身体の中では無数の変化が起こっています。しかも全部が調和して起こっています。ひとつでも狂ったら、例えば血糖がうまく出来なかったら意識がなくなって死にます。

  あるいは尿中のナトリウムがうまく再吸収されなかったら命はありません。また例え全部が動いても、調和して動かかなったら、命は保てません。しかも、医学的絶食療法(断食・ファースティング)中の変化は極めて強いものです。少しでも間違ったり狂えば駄目なのです。

 例えば、飛行機が飛び立つことを考えて下さい。離陸して上っていく間は、大変です。これが最初の3日目ぐらいまでの間に相当します。それから平行飛行に入ればもう殆ど揺れません。

 医学的絶食療法(断食・ファースティング)もまさにそうです。最初の間、大きな変化が起こる。それが安定期に達すると、もう自分では何ともない。何も起こってないような感じがします。むしろ爽快感がきます。爽やかな朝がきます。

​ 断食中の体の中の変化の詳しい説明はこちらをご覧ください。

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