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医学的絶食療法(断食・ファースティング)中の体のなかの変化

ファースティングをしているときの体のなかは一体どうなっているのでしょうか。「ほとんどつらくもなく空腹感もないし、蓄えられた糖分や蛋白質、脂肪を 食べているだけだから、体のなかでは大した変化は起きていないに違いない」、ファースティングを経験された多くの方はこのように考えられるでしょう。

 このホームページの目的は二つあります。

 一つは、ファースティングを簡単と思われては危険だということです。実は体のなかでは非常に大きな変化が起きています。しかも一つや二つではなく沢山の 変化が同時に行なわれていますので、ファースティングは熟練した医師による指導がなければ生命の危険が伴うものであることを理解していただかなくてはなら ないからです。

 もう一つは、ファースティング中の変化は体全体に及びしかも極めて強烈ですが、非常にスムーズにおこなわれるため、ほとんど苦痛や空腹感を感じることが ないこと、人間の体の中でおこなわれるこのような生体代謝の絶妙なコントロールを理解することは、自分の体に対する考え方に革命をもたらすことでしょう。 生きているということはそれ自体驚異的で素晴らしいことなのだということを知っていただきたいのです。

 下の図を見てください。脳の一番外側は、知性などをつかさどる大脳皮質で人間では大変発達しています。その内側には本能や情感をつかさどる部分、さらに は呼吸や体温など生命維持の中枢があります。特に視床下部は自律神経系と内分泌ホルモン系の中枢と言われ非常に重要な働きをしています。

心身相関の図

 生きてゆくためには胃腸を動かし呼吸をし心臓を動かし血圧を必要に応じて変化させ体温を一定に保ち満腹感や飢餓感を感じるなど大変多くのことがおこなわれています。これらの生命活動の元締め的な役割をしているのが視床下部といわれるところです。

 そしてここから脊髄を通って自律神経系をコントロールし、また視床下部の下にある脳下垂体を通して、甲状腺、副腎皮質、性腺に指令をだし甲状腺ホルモ ン、副腎皮質ホルモン、性ホルモンをコントロールします。あるいは脳下垂体から直接成長ホルモンや抗利尿ホルモンなどを分泌しています。

 ファースティング中は、知性の部分はあまり働きませんが、視床下部を中心とした内分泌ホルモン系や自律神経系が大活躍をして、絶食という状態に適応して生命を維持しています。ファースティングの主役はこのような内分泌ホルモン系や自律神経系といってよいでしょう。

糖質ホルモンの変化

 まず副腎皮質の糖質ホルモンから見てみましょう。このホルモンは大変有名で、膠原病や喘息、ネフローゼ症候群など多くの病気に使われ強烈な効果を発揮しますが、それゆえにまた極めて強い副作用を伴うものであることはよくご存じのことでしょう。

 実はこのホルモンは腎臓の上にある副腎から日常分泌されているものです。このホルモンの役割は、例えば外科手術などのように大きなストレスが体にかかったときに沢山分泌されます。いわばストレスに対抗して生命力を高めるホルモンです。

 大変面白いことにこのホルモンは早朝から朝方には沢山分泌され夕方から夜には少なくなる日内リズムを持っています。朝早く起きて夜は早く寝る人が大変元気なのはこのホルモンのリズムに乗っているからでもありましょう。

 下の図は33名の糖質ホルモンのファースティングによる変化ですが、ファースティング中は明らかに上昇しているのがわかります。

糖質ホルモン

★ 糖質ホルモンに対するファースティングの影響(33名)
 ファースティング前の平均は14.0μg/dlで,7日間のファースティング後は19.Oμg/dlと上昇し,復食後は14.6μg/dlとファースティング前にほぼ戻りました。

ファースティング中、このホルモンは後で説明するように血糖を体内で生産し血糖の最低限のレベルを維持する大変重要な役割を演じています。

 また予想に反してファースティング中は非常に元気だという理由の一つはこのホルモンの上昇によると思われます。さらに帰宅後も体が軽くて生き生きするのも、単に減量の効果だけではなく、このように一度副腎を強く刺激したことによるためかもしれません。

自律神経系の活性化

 さて次は自律神経系です。アドレナリンとノルアドレナリンという二つのホルモンがありますが、自律神経系が活性化すると上昇してきます。

 刻一刻と動く血圧の調節、心臓の動き、胃腸系などをコントロールし、また肝臓などに蓄えられている糖分を分解してブドウ糖にする役割があります。

 一食か二食抜いた時の冷汗や動悸はこのホルモンが奮戦して血糖が低下するのを防ごうとすることによって起こります。さらにファースティング中は、おなかの周りに蓄積された脂肪を切りだし血液中に送りだす働きもしています。

 下の図は、ファースティングによる変化ですが、10%以上の肥満者ではファースティングによってノルアドレナリンが上昇しているのがわかります。

ノルアドレナリン

★ 10%以上の肥満者のカテコラミンに対するファースティングの影響(13名)
 ファースティング前→7日後→復食後のノルアドレナリンの値は192→277→139pg/ml,アドレナリンは25→22→21pg/mlでした。

このホルモンが上昇していることは自律神経系の活性化がファースティング中には起こっていることを示しています。

 一方、アドレナリンの変化は認められなかったのですが、これはファースティングの一、二日日といった早期に上昇し、七日目の地点では元に戻ってしまったものと思われます。

甲状腺ホルモンの変化

 次は甲状腺ホルモンです。T3、T4と二つあり、T4からT3が作られます。ホルモンの力が強いのはT3の方で、これらのホルモンが沢山でればバセドゥ病です。新陳代謝が大変高まり、非常に汗をかき目が突出してきて沢山食べているのに痩せてきます。

 ファースティング中にこのホルモンが高くなれば普通よりもどんどん体重が減少します。肥満の方には歓迎かも知れませんが、生命を維持する方からいえば貯金が早く食い尽くされることになり困ります。

 下の図は、ファースティング中の甲状腺ホルモンの動きです。ファースティングによってリバースT3が非常に上昇しT3が低下するのがわかります。

 これはファースティング中はT4からリバースT3というホルモン活性のないものが沢山つくられ結局T3の生産が低下し新陳代謝を少なくするという絶妙の対応がなされます。維持費が安くすむようにするわけですね。大変巧妙な調節だと感心せざるを得ません。

ホルモンT4
ほるのんT3
リバースT3

★ 甲状腺ホルモンに対するファースティングの影響

 T4(8名)のファースティング前→後→復食後は7.6→8.4→7.2μg/dlとはとんど変化せず,一方T3(8名)は 100→69→88ng/dlとファースティングにより低下し,リバースT3(4名)は233-445-233pg/mlとファースティングにより著しく 上昇しました。

復食後はいずれもファースティング前の値にほぼ戻りました。

インシュリンの変化

 次は視床下部からは直接コントロールされていませんが、血糖を下げる働きをしているインシュリンというホルモンです。これは膵臓で生産されています。

 このホルモンは普段は細胞の中へ血糖が入り易くする働きをします。血糖が血液中に沢山あっても細胞の中に入らなければエネルギー源にはならず、尿からもれて浪費されるだけです。

 血糖は高いが細胞の中は糖が欠乏し、尿からどんどんもれる状態、これが糖尿病です。最後には血糖が高くなりすぎ昏睡になって死亡するというのが一昔前の 糖尿病の終末像でしたが、インシュリソが発見されて以降は、インシュリンの注射で血糖は細胞の中に入り血液中の値は低下しますので、このような死亡は極め て少なくなりました。

 しかしファースティング中にもインシュリンが沢山あれば血糖はどんどん下がり低血糖で意識がなくなります。血糖の生産は少ないのですからインシュリンも少なくてよいはずです。

 下の図は、50人のファースティング中のインシュリンの変化を示したものです。

 ファースティングによってインシュリンは低下し復食後はもとへ戻るのがわかります。このように、インシュリンはファースティング中には低下して、生体代謝の絶妙な調節を示しています。

インシュリン

★ インシュリンに対するファースティングの影響(50名)

 ファースティング前の平均値は9.7μU/mlで,7日間のファースティング後は7.2/μU/mlと低下し,復食後は9.5μU/mlとファースティング前の値にはぼ戻りました。

レニンとアルドステロンの変化

 最後はレニンとアルドステロンです。

 血圧を維持するには自律神経系と腎臓から分泌されるレニンというホルモンが重要な役割を演じます。特に脱水状態のときにはレニンが主要な役割を担います。

 レニンは血圧が下がり腎臓の血流量が少なくなると出てきます。このホルモンはアンギオテンシンという物質になり血圧を強力に上げる作用があります。一方 では副腎皮質を刺激し、尿中からナトリウムを再吸収するアルドステロンというホルモンを分泌させます。ナトリウムが取り込まれるときには水もくっついてき ますので血液量が増え血圧を保つことができるようになります。

 食塩と血圧を一緒に維持しようという巧みな機構なのです。

 ファースティング中は食塩が少し失われて軽度脱水になり放置していると血圧が低下します。
このためレニンとアルドステロンが沢山分泌されてくるのです。

 下の図は、レニンとアルドステロンです。

 ファースティングによりレニンもアルドステロンも著しく上昇しており、いままで説明したように血圧を維持するためとナトリウムの喪失を防ぐために奮戦しているのが裏づけられています。

レニン活性
アルドステロン

★ レニンとアルドステロンに対するファースティングの効果(9名)

 ファースティング前→後→復食後のレニンの平均の値は,1.2→5.9-0.9ng/dl、

アルドステロンは123→380→141pg/mlとファースティングによりともに著しく上昇し、

 復食後はほぼファースティング前の値に戻りました。

この他にも数多くのホルモンが変化しています。そして絶食という新しい状態でもほとんど苦痛なく生命が維持されるように働いているのです。

 では実際にこれらのホルモンが体のなかで働きエネルギーを作りだしたり塩のバランスを保ったりしている状況を見てみましょう。

体の適応の見事な仕組み

 

 下の表(Cahill,G.F. New Engl.J.Med.282:668-675,1970より)を見て下さい。

体の中のエネルギー

標準体重で70kgの人の体のなかのエネルギーの貯臓は、ブドウ糖やグリコーゲンという糖分で840キロカロリー、蛋白質では2万4千キロカロリー、脂肪では13万5千キロカロリーで、合計して実に約16万キロカロリーにもなります。

 一日に必要とするエネルギーは人により異なりますが、2千キロカロリーとして計算すると、糖分では約半日分、蛋白質は12日分、脂肪は67.5日分で合計80日分にもなります。

 勿論、これを全部使えば骨と皮だけになってしまいますから、現実には不可能ですが、7日間や10日間、この貯金を使って生きていくことは、医学的に管理されておればむしろ問題ないのは当然です。

 さらに肥満とは、この上に脂肪が付いた状態で、20kgのおなかの周りの脂肪は、60日分のエネルギーに相当します。

 人間の体のなかに大変な量のエネルギーが蓄えられていることがわかります。しかし一食か二食、食事を抜いただけでフラフラします。そんなにエネルギーがあるのにどうしてでしょうか。

 ファースティングにはいるとまず糖分を使用しますが、糖分は約半日分しか蓄えられていません。このためちょうど一食か二食抜いたときに、全身の力が抜けるようになり、動惇が打ち冷や汗がでて、手足が震え、軽い低血糖の発作がおこります。

 この動惇や冷汗などは肝臓などで蓄えられていた糖分を分解してブドウ糖を作る自律神経系の奮戦の現れです。

 しかしこの時期をすぎると体に蓄えられた脂肪と一部蛋白質を食べて生きてゆくように適応できフラフラするようなことはなくなります。

 皆さんが日常で体験している空腹感は実は一番つらいところなのです。

 ただ脂肪と蛋白質を使って生きていくように適応するのには少し時間がかかるようで、二、三日間はごく軽度の全身のだるさなどを感じる人もいます。しかし、それもその間を過ぎるとうまく適応できて、その後は爽快感が持続します。

ブドウ糖の再生産

 このような体の適応の仕組みをもう少し詳しく見てみましょう。下の図を御覧下さい。

ブドウ糖の再生産

 左端のエネルギー源のところには、糖分は既に使われなくなっていますので、蛋白質と脂肪だけになっています。

 減量が目的の場合は、脂肪だけが消費されれば一番よいのですが、それは人間のかってな要求で、右端にあるように、脳細胞などの神経細胞と赤血球や白血球などは、ブドウ糖をエネルギー源にして生きています。ブドウ糖がなければ生きてはいけません。

 しかしブドウ糖の貯金は既に使い果たされてありません。このままでは意識がなくなってしまいます。このため、体のほうは自分でブドウ糖を生産するようになるのですが、これには主に蛋白質を使用します。

 まず筋肉の蛋白質を分解してアミノ酸にし、肝臓でこのアミノ酸を原料としてブドウ糖が生産されます。

 これが脳細胞や赤血球に送られ、ファースティング時のエネルギーとして使われます。このブドウ糖の再生産を押し進めるのが図54で見ていただいた副腎皮 質の糖質ホルモンの役割です。ファースティングの時に本を読んだり、ものを考えたりするエネルギーは実は筋肉の蛋白質からきたものです。

▲遊離脂肪酸とケトン体

 一方、心臓や腎臓や筋肉は脂肪を食べて生きています。おなかのまわりなどの脂肪組織から切りだされ血液中に遊離してきた脂肪、それゆえに遊離脂肪酸と申 しますが、これを直接食べます。このおなかの周りの脂肪を血液中に切り出す働きをしているのが、すでにで見ていただいたアドレナリンやノルアドレナリンと いう自律神経系のホルモンです。

 またこの遊離脂肪酸が肝臓でケトン体というものにも代わります。このケトン体はファースティング中の重要なエネルギー源となります。

 次に実際の血液中の血糖、遊離脂肪酸やケトン体の変化ですが、血糖は、糖尿病のまとめの図で 見ていただいたように、ファースティング前が正常の方ですと、ファースティング七日後には50から60mg/dlあたりまで低下します。普段ですと軽い低 血糖発作がでますが、ファースティング中はそのようなことは起こりません。最低限必要なレベルまでは下がるが、それ以下には決してならないようにコント ロールされています。

 下の図は、遊離脂肪酸です。遊離脂肪酸はファースティング中は約二倍に上昇します。

血中遊離脂肪酸

★ 遊離脂肪酸に対するファースティングの影響

 遊離脂肪酸の平均値はファースティング前が404μEq/lでファースティングにより994μEq/lに上昇し、復食後は488μEq/lとやや高いもののファースティング前に戻りました。

 下の図は、血液中のアセト酢酸と3-ハイドロキシ酪酸というケトン体の変化ですが、ファースティングにより両者ともに上昇します。特に3-ハイドロキシ酪酸は二〇倍以上と大変な高さまで上昇します。日常生活では決して見られない状態なのです。

アセト酢酸
ハイドロキシ酪酸

★ 血液中ケトン体のアセト酢酸と3-ハイドロキシ酪酸に対するファースティングの影響(60名)
 アセト酢酸は、ファースティング前→後→復食後の平均値は,75→507-106μmol/l、
 3-ハイドロキシン酪酸が136→3159→283μmol/lといずれもファースティングにより著しく上昇しました。

 復食後はなお軽度高値というもののほぼファースティング前に戻りました。

 下の図は、尿中のケトン体の変化です。

 血液中のケトン体が高くなると尿にもれてでてきます。この尿のケトン体を毎日測定すると体の中の状態が良く分かり経過を観察するのに大変便利ですので当施設では毎朝測定して、ファースティングの経過を調べています。

尿中ケトン体

ファースティングがすすみ、体の脂肪が消費されるにつれ、尿中のケトン体も増加してきます。一方復食に入り、体のなかの脂肪の消費が少なくなるとケトン体も減少し最後は消失します。

 ファースティング中にこっそり食事をすると尿中のケトン体は消失し、復食になっても痩せ願望が強く食事をきちんと食べない人ではいつまでもケトン体が消失せず、簡単にわかってしまうというおまけまで付いてきます。

 

▲食塩のバランス

 次は食塩のバランスです。

 食塩は生きていくのに必要です。体のなかの食塩量が足りなくなれば当然命はなくなります。

 ファースティング中はほとんど食塩を取っていません。普段はたとえば十二gの食塩を摂取すれば、ほぼ同じ量が尿中に排泄されます。普段と同じようにどんどん尿中へ食塩が排泄されれば、体の中はたちまち欠乏状態となり、生命の危機が迫ります。

 食塩はナトリウムとクロールから出来ていますが、下の図のナトリウムもクロールも、ファースティングにより、ごくわずか低下するだけで、この程度の低下は医学上ほとんど問題ではなく大変よく一定の値が保たれていると申せましょう。

血清ナトリウム

どうしてこのようなことが出来るのかというのは、下の図が回答します。この図は尿中に
排泄されるナトリウムの量です。

尿中に排出されるナトリウムの量

 ファースティングにはいると、第一日目大幅に尿中排泄は減少します。しかしこの時のナトリウムの摂取量は0.6gですから、排泄され過ぎていることにな ります。ファースティング中はまだ少し摂取量より排泄量が上回りますが、逆に復食後は摂取量より排泄量が少なくなり失ったナトリウムを取り戻します。

 このコントロールをしているのが、すでに見ていただいた副腎皮質から出ているもう一つのホルモンのアルドステロンです。

 ファースティング中はこのホルモンが著しく上昇し尿中のナトリウムを強力に再吸収して、尿中にほとんどナトリウムのない状態にしています。このシステムの働くお陰で、血液中の食塩量はファースティング中もはば一定で生命の安全が保たれます。

 ただファースティング中は、上の図のようにナトリウムが少し余分に失われ、このナトリウムについて水分も失われますので、ファースティング中は軽度の脱水となっています。

 ほうっておくと血圧が低下しますので、前述したように腎臓からレニンがでてきて血圧を必要以下には下げないように働きます。

 このように体の代謝は大変ダイナミックな変化をしています。これらは日常生活では決して見られない強い変化です。どのような状態になっても生命体は新し い環境に適合し、安定した状態をつくりだそうとします。このために上昇させるべきものは上昇させ、低下させるべきものは低下させます。また変化させてはな らないものは変化しないように保ちます。これが生命体の特徴でホメオスターシスと申します。

 医学的絶食療法(断食・ファースティング)という非常に強いストレスに対しても、驚くほどの巧みさで体全体が新しい状態に適応するために、ほとんどつらさも、空腹感も感じなくて生きてゆけるのです。

 確かになかには多少のつらさを感じる人も稀れにはありますが、それも二、三日で、それが過ぎると、「あれ、今日の朝はなんて爽やかなんだろう!」という爽やかな朝が訪れます。そして、その後の日々は爽快感が持続します。

 ファースティングの感想をもう一度見て下さい。皆さんが想像されるような空腹感で苦しむといったイメージからはほど遠いのはこれもひとえに体のなかの内分泌ホルモン系や自律神経系の大活躍のお陰です。

 結局ファースティングとは内分泌ホルモン系と自律神経系に大きな変動を引き起こすことによりさまざまな効果を発揮する方法であると言えるでしょう。

 以上のように巧みな体の適応能力のお陰でファースティング中も快適に生きてゆけるのですが、これだけ大きな変化が起こっているのですから、ファースティングにはきちんとした医学的な管理が必要なのだということをくれぐれも十分理解していただきたいと思います。

 一方では、日頃何とも思わずに使っている自分の体が実は月ロケットがおもちゃに見えるほど素晴らしいもので、遥かに人間の理解の能力を越えたものであることをも十分納得していただきたいと思います。
 ファースティングのときほどではなくても、手や足を動かすときにも食事をするときにも歌を歌うときにも、体のなかは大変大きな変化をしています。また夜寝ているときでも心臓は確実に動き、呼吸は規則正しくおこなわれています。

 普段は自分で生きていると思っていますが、私はこのような体のダイナミックな変化や反応になんら手助けをしていません。体はどのようにしてこの変化を一 刻の休息もなく絶妙の調和をとりながらおこなうのでしょうか。誰がいったい夜も寝ずに生命を維持してくれているのでしょうか。

 これまでお読みいただいて皆さん方は自分の体についてどのような感想をお持ちになりましたでしょうか。

 私は生きているのではなく、生かされているのだという事実に気づかずにはおれません。事実として生かされているということを医者として認めるとき広々としたやすらぎを感じます。

 自分で生きていると思っているときは大変疲れます。心臓だけでも一日に一〇万回動かさなければなりません。大変なことです。自分を生かしてくれている生命への信頼は、本来もっている春の光のような生命力の躍動を甦らせてくれるように思います。

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