ミニ・ファースティング(半日断食)中の身体の中の変化

◆エネルギーの面から

 Cahillという人の研究によれば、標準体重が70Kgの人のエネルギーの貯蔵量は、糖質であるブドウ糖やグリコーゲンで840Kcalです。一日2000Kcal消費するとすると、半日分ぐらいです。

  蛋白質は24000Kcalで、約12日分です。脂肪では実に135000kcalですから、67.5日分になります。合計すると約80日分あるということです。

  これは標準体重の人の場合です。肥満というのはこの上にさらに脂肪がプラスされています。10Kg肥満しているというのは、脂肪組織は30%が水分と仮定すると7万kcalですから、プラス35日分、20Kgの肥満は実に70日分のエネルギーを余分にもって生きていることになります。

  どこかで遭難して2か月後に発見されたとき、ようやく標準体重に戻っていたということです。勿論、これは緊急事態ですので、命の保証はありません。

  ただ、このようなデータから、いかに体重を減らすということが難しいかということがご理解頂けると思います。


◆脳細胞は甘党

  ファースティングに入り、半日以上経過するとブドウ糖はもうありません。残るエネルギー源は、筋肉の中にある蛋白質か、おなかの周りの脂肪組織です。

  一方、脳の神経細胞とか、赤血球、白血球はブドウ糖で生きています。どんな状態になってもブドウ糖がいります。これがないと意識がなくなります。脂肪だけでは生命を保てないのです。

  そこで、筋肉を分解してアミノ酸にして肝臓でブドウ糖をつくり、最低の血糖のレベルを維持しているのです。これを糖新生と言います。このブドウ糖が脳の神経細胞へ行って使われます。

  この糖新生をするのは誰でしょうか。副腎からでてくるコルチゾール(糖質ホルモン)が、この重要な役割を演じます。アトピー性皮膚炎やネフローゼ、膠原病などの治療で有名なホルモンです。

  薬かと思っていた方もあるでしょうが、日々私たちの腎臓の上にある副腎から分泌されています。だから、ファースティングというのは、自分の身体からでる糖質ホルモンを使ったステロイド療法だということも言えます。

  こうして、どんなに血糖は下がっても、50〜60mg/dlで止まります。素晴らしい調節です。

 しかも、長期のファースティングになれば、神経細胞は次に述べる脂肪から作られるケトン体を食べることができるので筋肉の消費が少なくなります。

  このように、ファースティング中の血糖は、筋肉由来の蛋白質から作られたものです。血糖がちょっと低いから、計算のスピードが落ちたり難しい本は読みにくいです。そのかわり感性が冴えてきます。緑が綺麗に見え、鳥の鳴き声が新鮮に感じ、空や海の広がりに感動します。


◆ケトン体

  一方、心臓、腎臓、筋肉、このような臓器は脂肪を利用できます。おなかの脂肪が分解され遊離脂肪酸となって血液中に入り身体中を回りますが、この遊離脂肪酸を食べることができます。あるいは遊離脂肪酸が肝臓で変化したケトン体を食べます。このケトン体がたくさん生産されると尿に出てきます。


◆自律神経系

  アドレナリンやノルアドレナリンといった自律神経系のホルモンも活性化してきます。

  自律神経系の役割は、ファースティングの初日に蓄えられていたグリコーゲンを分解して、ブドウ糖をつくります。その後は、おなかの周りの中性脂肪を切り出して遊離脂肪酸にし、血液中に運びます。

  それから、ファースティングは食塩を尿から失うので水が一緒について出て少し脱水気味になります。ほうっておくと血圧が下がりすぎますので、心臓の収縮回数を増やすのと、体中の細い動脈を縮めて最低限の血圧を保つようにします。

  正常血圧の方はファースティングをしてもあまり血圧が低下しないのは、一つはこのホルモンのお蔭です。もう一つは、後で出てくる腎臓のレニンというホルモンのお蔭です。


◆甲状腺ホルモン

  ファースティングに入ると、生命体としては一日でも長く生き延びたい。そのため基礎代謝を下げて消費カロリーを低くします。自動車で言うと排気量が2000ccの車が1600ccになるようなものです。

  基礎代謝をコントロールしているのは甲状腺ホルモンですから、甲状腺ホルモンの活性を下げようとします。

  通常は、T4というホルモンからT3というホルモンを作ります。このT3というのは、作用が非常に強力です。しかし、ファースティングに入るとT4から、リバースT3というホルモン活性が殆どない物質を作り、肝心のT3が出来ません。

  このように甲状腺ホルモンの活性が下がり、基礎代謝も下り、体重は落ちなくなるということになります。


◆ファースティング−食塩の面から

  いままでは、エネルギーの面からお話してきました。こんどは、食塩の面からです。普段は10gちょっとの食塩を食べて、それと同じぐらいの量が尿から出ています。

  もしファースティング中も、同じように尿から食塩が出たら、数日の内に私たちは死んでしまいます。それでは困ります。


◆アルドステロンとレニン

 それでどうするかということですが、アルドステロンというホルモンが働きます。

 アルドステロンは副腎から分泌される電解質ホルモンで、尿中から食塩を再吸収します。ファースティング中は、このアルドステロンの分泌が非常に多くなり尿に食塩は出なくなります。

  ただ最初の数日はまだこのホルモンの分泌は多くならないので、その間は尿から食塩が漏れます。

  次にレニンです。

  これは腎臓から分泌されるホルモンで、血圧が下がると沢山分泌され血圧を上げます。同時に副腎を刺激してアルドステロンも分泌させ、食塩を失わないようにするのです。それ以上脱水になって血圧が下がらないようにするためです。

  食塩はナトリウムとクロールの化合物ですが、摂取したナトリウムと尿から排出されたナトリウムの差で見ると、最初の4日間ぐらいは、入った量よりも尿中に失った量のほうが多くマイナスになっています。

  ナトリウムと一緒に水がついて漏れるので脱水が起こります。しかし、その後は入ったナトリウムと出た量は殆ど同じになり、脱水は止まります。

 ですから、ファースティングの最初の数日の体重減少の大部分は脱水です。脱水になと血液が固まりやすくなります。動脈硬化のある方ですと、心筋梗塞や、脳梗塞を起こす可能性があります。

  水を摂取しても食塩がないので脱水を止めることはできませんが、水を飲まなければもっと脱水になります。このため、水を最低でも2000cc摂取するようにしているのです。